今回のテーマは、漫画ビジネスの採算性(収支)についてです。
漫画は単行本が売れないと赤字になる
今回のタイトルの通り、漫画は単行本(コミックス)が売れないと赤字になるビジネスです。
そのため、単行本の売れない漫画(購入してくれるファンがいない漫画)は、たとえアンケートでそこそこ人気があっても連載が打ち切られます。
出版社側からの視点
出版社側からの視点でみると、マンガ雑誌は単体での採算がまったく取れていません。
例えば週刊少年ジャンプの場合、1冊255円の雑誌が店頭に並ぶまでに様々なコストがかかっています。
例えば、漫画家へ支払う原稿料はもちろんのこと、編集にかかる費用や印刷代、ジャンプを全国各地に配送するまでには非常に大きなコストがかかっています。
特に配送費は、1回で数千冊をまとめて配送するとしても、1冊当たりの大きさと重さもかなりのものなので、1台のトラックで配送できる量にも限界があります。
また、トラックに積み込む際にも、人力では不可能なのでフォークリフトを使って行うなど、時間と手間をかけて配送しています。
それらの事からもマンガ雑誌は、出せば出すほど赤字が広がるビジネスモデルになっています。
そしてそのマイナス面を、単価の高い単行本の売り上げで補っています。
全ての作品が単行本になる訳ではない
そのため「単行本が売れない」と判断されれば、雑誌に掲載されても単行本になりません。
その単行本に収録されない作品は「単行本未収録作品」と言われます。
そして漫画雑誌には連載されるものの、単行本にならない漫画家の事は「読み切り作家」と呼ばれます。
例えば『だめんずウォーカー』の著者である「倉田真由美」先生は、何度も雑誌に読み切りを掲載されていましたが、『だめんずウォーカー』が初めて単行本化された作品です。
そして1作品ヒットが出ると、人気漫画の単行本に「特別読み切り」として掲載されることが多いです。
また別の雑誌社の場合や、同じ出版社でも本数が多い場合は「単行本未収録作品」として売り出されることも多いです。
例えば、ジャンプの大人気漫画『ワンピース』の「尾田栄一郎」先生も、連載前に多くの読み切りを発表していましたが、『ワンピース』が人気になってから「初期作品集」として『WANTED(ウォンテッド)』が発売されました。
初期作品集の問題点
ただ初期の作品集はデビュー当時の絵とギャップがある場合も多く、賛否両論となっています。
特に単行本の表紙を新たに書き起こす場合は、中身と全く違う絵になるため、そのイメージで購入すると中身とのギャップで落胆し、ひどいものでは書店に「中に表紙と違う本が入っていた」と訴えてくる読者もいたそうです。
<h2漫画家側からの視点
逆に漫画家側の立場からしても、単行本が売れないと赤字になります。
雑誌連載をする場合、漫画を描くための事務所の契約をしたり、アシスタントの雇い入れ、人数分の机とイス、コピー機や電話機などの必需品などの支払いが必要なので、かなりの初期投資が必要です。
そのため漫画が短期(10週など)で打ち切られた場合は、初期投資が回収できずに赤字のままで終わる「連載貧乏」になります。(これは特にデビューしたての新人に良くあるケースで、そのために漫画家を続ける気力がなくなり諦めるパターンが多々あります)
また逆に漫画がヒットすれば、印税で大きく収入を増やすことができます。
『GANTZ(ガンツ』で有名な「奥浩哉(おくひろや)」先生はTwitterで、
漫画家になっての初単行本が出た時の思い出は、銀行で通帳の残高を見て 散々 両親を悩ませていた借金がいっぺんに返せる喜びで、それを早く親に伝えたくてアパートまで走って帰ったことです。
— 奥 浩哉 (@hiroya_oku) 2014年6月12日
と印税のインパクトの大きさに言及しています。
まとめ
単行本の事を考えるといつも思うのですが、『一度掲載されたものを販売する』という発想がすごいなと感心させられます。
読者は「ワクワクドキドキ」しながら漫画雑誌を読んでいますが、一度読んでしまえば最初のワクワク感が無くなるので、すでに知っているものにお金を出すと思えないのに、実際には多くの人が単行本を購入しています。
これは漫画の持つ『コレクション性』だと思います。
「一度雑誌で掲載した内容だけどファンなら買うはずなので販売しよう」と考えた人は、本当に天才じゃないかと。
だからこそ、単行本の売れない作家はコア(一度読んだ内容をお金を出しても読みたい)なファンが付いていないので、連載が打ち切りになったりするのだと思います。